2014-6-24


 グループ展があるのですという連絡をいただいたのは偶々汐留で打ち合わせのあった日で 場所は清澄白河だというから駅のホームで少し悩んだあと 帰りの方向とは逆の電車に乗って会場へ向かった 打ち合わせで会社を出る僕に「嵐が来るみたいですよ」と同僚が言っていたように 地上へ出ると雷を伴ったまばらな雨が 波のように降っては弱まりを繰り返していた ギャラリーに入るとYさんがいて なんとなく気恥ずかしくて打ち合わせで近くまで来ていたことを言い訳のように話し 真白い壁に下がっている四人の作品を見て回って 二脚だけ用意されていた小さな椅子に座った Yさんは以前よりも顔色が良く会話も落ち着いていたが お客さんの前で話題を探す僕の上司のように忙しない様子で 受付に座ってはまた立ってみたり ポストカードを揃えたり マカロン食べますか と僕に訊いてみたりしていた


「誰か気になる人いますか?」


「この正面の人の絵 ちょっと好きです」


「Kさんですね Kさんは最近絵に悩んでるみたいです」


「そうなんですか」


「私この子に良く怒られるんです 悲しいとか辛いって感情を絵にぶつけちゃ駄目だって」


 空はますます嵐特有の青むらさき色に染まり 強弱を繰り返す雨音と主催者の家族が送ってくれたという大きなクチナシの甘い匂いでするすると非日常へたぐられては 車の水を跳ねる音や下校中する彼等彼女等の声でふらふらと現実へ戻ってくる 少し慣れてきた様子のYさんは創作にまつわる様々な話をして といっても絵そのものについてではなく絵にまつわる自身の生活の話をして 僕はその内容よりも ゆっくりと手で形を確かめるような話し方をするな なんてことを考えていた しばらくして一緒に主催をしたKさんがやって来て 絵のことで少しだけ話をさせてもらい それじゃあとギャラリーを出た
 僕が今でもひっそりと文章を書き重ねるように Yさんも絵を書き続けていきたいと言った 僕の勝手な印象だけれど 会う度に自身への約束事を増やして不自由になっていくような彼女に 実感を伴って伝わりはしないだろうが 君の敵はどこにもいないのだから他の誰かや自分自身に縛られず自由にやれば良いのに と白昼夢のような雰囲気に任せて話すことができれば良かった