普通に土曜日が来て普通に過ぎていく


 実家に置き去りのCDを捨てられてしまわないうちに取りにいこうと思い立って母親へ電話をしたら あの人はいつものきんきんとした声で「じゃあちょっと悪いんだけど熊谷まで迎えにきてくれない? 車がなくってさアハハハハ」と何がおかしいのか大笑いしながら 僕の返答を待たずに電話を切った 途中で買ったケーキが駄目になってしまわないよう一度実家に寄ると テレ東が特番を組むような確率でしか鍵の閉まらないサッシが開かなかった おかしいなと思い玄関へ回ると離れから大音量のradwimpsが聞こえ あーもーうるせーなーと思いながらノックをすると上の妹が顔を出した


「あれ? **(僕の名前だ)だ どうしたの?」


「色々取りきた」


「ふぅん でもほとんど捨てちゃったよ?」


「あぁ そう…………」


 少し世間話をしていると「TDLのお土産があるんだ」と妹が思いついたように離れから飛び出したので 「また来るからその時でいいよ」と呼び止め 変わりに持っていたケーキを渡した


「4人分あるから ショートケーキ2つとチョコレートケーキ2つ 好きなの選んでよ」


「うん どこか行くの?」


「##(母親の名前だ)迎えに行かなきゃ $$(妹の名前だ)も行く?」


「私 用事あるから行けない」


「そっか」


「気をつけてね」


 国道を迂回するように伸びる堤防沿いの道をゆっくりと走った 斜面にはひどい数の菜の花が咲いていて 陽気が穏やかなこともあって自転車で走る学生や散歩をする人の姿が多く ぐあんぐあんとそれをかわしながら30kmぐらいで車を走らせる スピーカーから『大人の嘘』という歌詞が流れる その甲高い声に合わせて歌ってみようと思ったけれど 周りには人が多いし そろそろ母親の待つ場所へついてしまうので止めておく ついでにCDも無難なものへ入れ替えた


「ほうれん草いる?」


「いきなり何言ってるの?」


「何ってほうれん草 もらったから」


 新聞紙にくるまれたほうれん草を後部座席へ置いて 母親は助手席に座った


「どうするの? 帰る?」


「うぅん ちょっと行きたい店があるから そこ行ってから帰る」


「ふぅん……それ長い?」


「なんで迎えにきてもらって嫌そうなんだよ」


 田舎の大通りにある雑貨屋へ行き 会ったことのない知り合いへのプレゼントとしてこれを買って それなりに混んでいた国道を通って帰る そのあいだ母親は家族の近況を何かに取り憑かれたように喋り続けていた あぁとかうんとかあははとか適当な返事をしてやり過ごしていると いつの間にか妹が前橋の占い師へ会いにいったという心底どうでもいい話題になっていて「あの子 前の彼氏を引きずったまま今の彼氏と付き合ってるとか言われたんだって」などとけらけら笑っている 妹の前の恋人はバイク事故で死んで その日 彼女は切り裂くような声を上げて一日中泣いていた


「でね あの子自分で『引きずってるのかなぁ』とか言ってて 死んじゃったんだから引きずらないわけないでしょって言ったんだけど」


「あのさぁ」


「うん?」


 生きている人のことも忘れるのに 死んだ人のことをいつまでも憶えてられるはずない


「ちょっとうるさい」


「はい」